世帯分離すればお得って聞いたけど…?」そんなあなたが知っておきたい“落とし穴”の話
「親の介護が始まって、いろいろ調べていたら“世帯分離”って言葉にたどり着いた」
そんな経験はありませんか?最近では、高齢の親と同居する中で「介護費用を抑えるために世帯を分ける」という選択をするご家庭も増えてきました。確かに、条件が揃えば経済的に有利になる場面もあります。
でも、その一方で、あまり語られない「デメリット」も存在します。実は、安易に世帯分離をすると、後々「こんなはずじゃなかった…」と後悔することもあるのです。
この記事では、世帯分離の“見えにくい側面”に焦点を当てて、分かりやすく、そして人の心に届くようにお伝えしていきます。読者のあなたにとって、大切なご家族の未来を考えるきっかけになれば、こんなに嬉しいことはありません。
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そもそも「世帯分離」って何?どうして選ばれるの?
世帯分離とは、同じ住所に住んでいる家族を、住民票上で別々の「世帯」として登録することを指します。たとえば、親子で一つの家に暮らしていても、役所の手続きで「父の世帯」「息子の世帯」と分けて記録することができるのです。
この制度が注目されている理由のひとつが、介護保険サービスの自己負担額を軽減できる可能性があることです。特に、親が低所得者である場合、世帯合算から外すことで「低所得者向けの軽減制度」が適用されやすくなるため、介護施設の費用負担が軽くなるケースもあります。
ですが、それはあくまで“うまく条件が合った場合”の話。実際には、いくつもの落とし穴が存在し、注意しなければ損をすることもあるのです。
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1. 保険料が2倍⁉国民健康保険料が高くなることも
「介護費用を抑えたくて世帯分離したのに、国民健康保険料が上がってしまった…」
これは非常に多い“あるある”です。
世帯を分けると、それぞれの世帯が独立して保険料を計算されるようになります。もともと一世帯で合算していた収入や控除が、分かれてしまうことで逆に保険料が増えるケースも。特に注意が必要なのは、親の年金収入が想定より高かったり、子の収入に応じた扶養控除が使えなくなった場合です。
「節約のつもりが、逆に負担が増えた」
こんな結果にならないためにも、保険料のシミュレーションは事前に役所で相談しておきましょう。
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2. 扶養手当・家族手当の対象外になることもある
これは、働く世代にとって意外と見落としがちなポイントです。
会社によっては、配偶者や親を「扶養家族」として登録することで、月数千円〜1万円程度の扶養手当・家族手当が支給されるケースがあります。しかし、世帯分離により「扶養関係が証明できなくなる」と、これらの手当が打ち切られることもあるのです。
このように、一見して“生活保護に近い世帯の支援”のように思える制度が、実は働く側の家計に直接響くこともあるというのは、なかなか知られていません。
「毎月1万円以上もらっていた家族手当がなくなった」
「ボーナスの計算にも影響が出た」
そんな体験談も実際に耳にします。制度を利用する前には、会社の人事部に確認をとっておくことをおすすめします。
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3. 手続きがとにかく煩雑。親の代理は簡単ではない
「そんなに難しくないでしょ?書類出すだけでしょ?」
そう思ってしまう方もいるかもしれませんが、実際にやってみると分かります。世帯分離に関わる手続きは想像以上に複雑で、親が高齢だったり、認知症を患っている場合はさらに大変です。
住民票の分離に始まり、国保、介護保険、年金、各種控除の見直しまで…一度世帯を分けると、関連する行政手続きが芋づる式に発生します。
しかも、本人の委任状が必要になる場面も多く、本人確認書類や代理人の身分証明などを揃える必要があります。これがまた、何度も役所に通わなければならない理由になるのです。
特に地方では、「本人が窓口に来ないとダメ」というケースも珍しくありません。家族が仕事を休んで対応することもあり、気力も体力も使います。
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4. 介護保険サービスの費用を“世帯合算”できなくなる
たとえば、家族が同一世帯であれば、「所得の合算」により一部の控除が使える場面があります。しかし、世帯を分けることで親の単独世帯扱いになり、介護保険サービス費の自己負担額が増える可能性も。
これが非常に悩ましいところで、親が低所得だと恩恵を受けやすい反面、年金がある程度ある場合や、資産が見なされるケースでは、“中途半端な世帯分離”が逆に不利になるのです。
つまり、「一部の人にとっては助けになる制度が、別の人にとっては足かせになる」という側面があるということ。だからこそ、一度“損得勘定”のシミュレーションをしてから判断することが必要不可欠です。
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5. 二世帯住宅の落とし穴。小規模宅地等の特例が使えないかも
親名義の土地に建てた二世帯住宅。そこに同居して介護をしていた子が住み続けるつもりだった…。そんな場合に忘れてはいけないのが、「小規模宅地等の特例」の存在です。
この制度は、相続時に大幅な評価減を認めるもので、同居していれば330㎡までの土地に関して80%の減額が認められる可能性があります。
しかし、世帯分離をしていたことが原因で、“同居”とみなされず、特例が使えなくなるリスクもあります。
この問題は、介護や生活費の視点だけでは見えてきません。将来的な“相続の話”とも深く関係してくるため、事前に税理士や司法書士に相談しておくべきです。
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結局、世帯分離ってするべき?
ここまでデメリットを中心にお伝えしてきましたが、決して「世帯分離は悪いこと」と言いたいわけではありません。大切なのは、“本当に必要かどうか”を見極めた上で、きちんと準備して実行すること。
そのためには、以下のような観点から検討するのがおすすめです。
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介護保険の負担軽減がどの程度になるか
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保険料や手当の減少で損失がないか
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将来的な相続に悪影響は出ないか
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手続きにかかる時間や労力は現実的か
一つひとつを丁寧に洗い出し、「得するから」ではなく「損しないように」選ぶことが、家族全体の幸せに繋がります。